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Faculty Voice Series Episode 5. Andy Crofts 教授
学生のみなさんが教室で見る教員の姿、そして、本学を目指す受験生が、パンフレットや著書から知る教員の姿は、ほんの一面でしかないのかもしれません。
そこで、Faculty Voice Seriesをスタートし、本学の教員の真の姿に迫るエッセイをリレー形式でお届けすることにしました。専門分野や研究内容だけでなく、趣味、人生観、若き日の想い出など、様々な角度から語られるそれぞれの教員の人柄に、ぜひ触れてみてください。Episode 5.は、Andy Crofts(アンディ?クロフツ)教授です。
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アンディ先生は英国のヨーク大学にて、1996年に生化学の学位を取得後、2000年には同大学で植物細胞生物学の博士号を取得しました。2001年からはポスドク研究員として米国のワシントン州立大学に活動の場を移し、8年間研究を続けました。本学には2009年8月に助教として着任し、現在は本学の基盤教育プログラムの代表として学生の指導をするとともに、日本学術振興会の科研費事業にも採択されたイネの生産性を高める因子に関する研究にも当たっています。
My Place of Inspiration
暗闇の中、ゴロゴロと響く低音と車の座席から伝わってくる強い振動で、車中泊をしていた私は飛び起きた。
最初に頭に浮かんだのは「地震」という言葉。今まで地震の揺れを経験したことがなかったので確信はなかったが、とにかく対処が必要な何かが起きていたのは確かだった。
車の外では、薄暗い月明かりの下で、近くの木々が動いているのが見えた。風に吹かれているような揺れではなく、確実に大きく「動いていた」。木々の動きはどんどん速くなり、それと同時に、ゴロゴロと響く音もますます大きくなってきた。寝起きの頭で必死にこの尋常ではない状況を理解しようとして、やっと気が付いた。これは地震などではなく、もっと単純なことだ。坂道に停めていた私の車が、動き出していたのだ!
動いている車を緊急停止させたい時に推奨される最初の手順が、サイドブレーキをかけることだ。この簡単な動作を実行したことで、私の車はすぐに停まり、車両も私も(少なくとも物理的には)無事だった。なぜ私が寝る前にサイドブレーキをかけなかったのかは、今でも謎のままだ。緊急時にかけるブレーキというより、この時のような緊急事態を予防するためのブレーキなのだから、サイドブレーキ(英語で「emergency brake(緊急ブレーキ)」)の名前は「emergency prevention brake(緊急事態予防ブレーキ)」と呼んだほうが良いだろう。私のような怖い思いをする人が減るはずだ!
この話に出てくる車こそが、私が2001年に渡米しワシントン州立大学(WSU)でポスドク研究員として働き始める時に購入した、ホンダの1986年製アコードだ。前述のエピソード―「最も軽症で済んだサイドブレーキ掛け忘れ事件」とでも名付けようか―は、米国モンタナ州にあるグレイシャー国立公園への一人旅で起こった出来事で、私がこの車と共に「楽しんだ」、「ちょっとした冒険」の一つに過ぎない。このグレイシャーは、その前年に私が米国で初めて訪れた思い出の国立公園だったのだ。当時はWSUの野外レクリエーションセンターの友人たちと一緒だった。(WSU野外レクリエーションセンターが素晴らしい施設だったことも申し添えたい。後に私は、その時は婚約者であり、現在の妻であるナオコと共にセンターでカヌーを借りて、月明かりの下、アイダホの原生自然のなかでカヌーをしたこともある。
太平洋岸北西部で過ごした8年の間に訪れた数々の国立公園での体験は、私や、行動を共にした家族?友人に、大きな影響を与えてくれた。一つの壮大な冒険とも言えるこの期間は、自然界と自分自身のことを深く知ることができる、発見の時間になった。このときのたくさんの経験は、今なお、私の哲学や学生との接し方、そして人生そのものの糧となっている。
このエッセイを書くにあたっては、米国に住んでいる間に撮影した何千枚ものフィルム写真をじっくりと見返してみた(見返しすぎてしまった)。その写真の圧倒的大多数に、私は写っていない。それどころか、多くは人間が誰一人写っていない。ほとんどすべての写真は、豊かな大自然の写真だったのだ。高くそびえる山脈、手の加えられていない河川、そして色とりどりの草原。多くの写真は有名な、そして私が訪れたなかで一番大切な、イエローストーン国立公園で撮られたものである。
イエローストーンには米国滞在中に計5回訪れたが、そのうち一人で訪れたのは一度だけだった。初めての一人旅だったその旅の道連れはあの愛車Golden Honda。もっとたくさん行きたかったが、イエローストーンまでの片道800km、10時間の運転に阻まれた。
旅行をするなら一人が一番とはよく言ったものだ。一人旅は自由で、自分専用のプランが立てられる。ぎりぎりのところで計画を変更しても、誰にも迷惑がかからないのだ。
イエローストーンでの3日間の一人旅では、愛車を移動式のキャンプ拠点(「緊急事態予防ブレーキ」付き!)として、時間の限りをレンジャー(米国の国立公園に常駐し、観光案内と公園の保全を担う管理スタッフ)によるガイド付きハイキングツアーに費やした。個性豊かなレンジャーたちが、イエローストーンの独特な地質や生態を実地で解説してくれるのだ。イエローストーン内の温泉で発見された好熱菌 サーマス?アクアティクス(Thermus aquaticus)が、COVID-19対策でも活躍している効率的なPCR検査法の開発につながったことは、ご存知?
イエローストーンのユニークな自然を紹介してくれたレンジャーたちは、同時に、教授法のプロでもあった。レンジャーは自身が持つ知識、エピソード、視覚教材、そしてユーモアを総動員し、時には素晴らしい自然を分かりやすく説明をしてくれたのだ。そんな彼ら彼女らは時折、プライベートなエピソードも共有してくれた。それらにはいずれも自然を畏れ敬う姿勢や、その保全への想い、そして自然の中の人間の立ち位置といった哲学が通底していたのだ。当時は気づかなかったが、レンジャーたちは、教壇に立つ今の私にとってのガイド役にもなってくれている。
イエローストーンでの初めての一人旅は、まるで30のとても短く濃密な科目を受講しているようだった。それぞれの授業は、深い専門性と情熱を持った講師による、息を呑むほどの美しい自然の中での実地講義であり、その後、家族や友人たちとイエローストーンを訪れた際にガイド役となった私の手本となった。それは、私が今、生物学や化学においてAIU生のガイド役となっていることにつながっている。
あなたが人生で旅をしていくなかで、覚えていてほしいことがある。あなたがどこへ行こうとも、今日得た経験の本当の意味は、後になるまで見いだせないかもしれない、ということだ。あなたにインスピレーションを与えてくれる場所、「あなたにとってのイエローストーン」を見つけられる日がいつ来るかは、誰にもわからないのだから。
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