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インタビュー:「八郎潟モグリウム」と環境保全活動の取り組み
~共に価値を創造する~
2024年5月、「八郎潟モグリウム」が、D棟の図書館側、屋外に設置されました。八郎潟モグリウム(以下、「モグリウム」)とは、八郎潟干拓前の地層から掘り出してきた「モグ(沈水植物)」の種(埋土種子)を復活させ、育てている水槽を指す造語で、八郎潟の生態系再生を目指しています。
「NPO法人はちろうプロジェクト」(以下、「はちプロ」)と名取 洋司 准教授のご協力のもと、本学への設置を実現につなげた伊藤 志帆(いとう しほ、2021年入学)さんに、モグリウム設置の経緯、環境保全活動の取り組み、今後のビジョンについてお話を伺いました。
モグリウムとの出会い
伊藤:私は高校時代から、プラスチックごみなどの環境問題に関心がありましたが、AIUの名取先生の授業をきっかけに、生物多様性の分野に強く引き込まれていき、生物多様性を専門に活動するユース団体、一般社団法人Change Our Next Decade(以下、「COND」)の普及啓発部で活動をするようになりました。CONDをきっかけに国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)の活動にも関わるようになりました。IUCN-Jは、自然保護?生物多様性保全活動を行う国際ネットワークIUCN(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources 国際自然保護連合、本部:スイス?グラン)の国内委員会です。
先日は「IUCN-J 将来世代戦略」が策定され、私も策定委員として携わりました。若い世代が環境保全活動へ参画しようとすると、いくつもの障壁が立ちはだかります。資金や機会が十分にない、声を上げてもなかなか届かない、周りから活動に対してネガティブな声を掛けられる、機会が一部の人に偏ってしまうなど、どれも簡単なことではありませんが、それらを乗り越えていくための戦略をまとめました。
今年2月には、環境保全に取り組む若手の方と、若手の方を巻き込んで活動されている方からのお話を伺う機会として、―自然とあなたの未来を描く―IUCN-Jユースワークショップが国内4カ所+オンラインでサテライト開催され、対面会場のひとつだった秋田会場のコーディネートを名取先生と共に担当しました。秋田で対面会場を設けるからには、秋田のさまざまな分野で活躍されている方々に広くご参加いただきたい!と思い、ワークショップへご参加いただける個人、団体を探すことに力を入れました。秋田で環境保全活動をしている団体をインターネットで調べて、それぞれに直接ご連絡をし、イベントのご案内をしました。そのうちの一つがはちプロでした。ワークショップ後の懇親会でAIUにモグリウムを設置するアイディアが生まれ、ゴールデンウィーク明けに実現しました。
プロジェクトの概要
伊藤:この水槽には、かつて八郎潟に生息していた4種類の「モグ(沈水植物)」が植えられています。かつての八郎潟では、水草をモグと呼び、生活の一部として畑の肥料などに活用していたそうです。ところが戦後の食糧難という時代背景のなか、干拓によって五分の一に縮小した八郎湖の環境は大きく変化し、モグは姿を消しました。八郎湖の生態系が乱れ、夏は植物プランクトンの異常増殖(アオコの発生)という問題が起きています。そこで干拓前の地層からモグの種を掘り出して育て、八郎潟の遺伝子を持つモグを八郎湖に戻すことで、地域遺伝子を乱さずに生態系の再生を目指すというのがこのプロジェクトの概要です。
水草の生育とともに、水槽には様々な水生生物がやってくるはずです。その中でも注目したいのはミジンコです。ミジンコは自然発生するのではなく、空を飛んでやって来るのです。通常、ミジンコは雌のみで産卵し、雌を産みます。しかし、生息する環境に危機が訪れると雄が生まれ、受精卵を作ります。この卵は乾燥にとても強く、風に運ばれ、行きついた先の環境が良ければ水を得て孵化し、そこでまた命をつなぎます。ミジンコは、アオコを食べて水をきれいにしてくれます。
設置したばかりのAIUのモグリウムには、生物はまだほとんど見られませんが、これからミジンコやヤゴが集まり、小さな生態系が広がるのを楽しみにしています。
活動を通して得られた気づき
伊藤:私は秋田県立大や秋田公立美術大学の学生が中心となって活動する「はちプロ学生部」へも参加しています。主な活動内容は、オンラインでの勉強会や、はちプロが参加するさまざまなイベントのサポートなどですが、5月には八郎潟町のうたせ館にて、はちプロ学生部の合宿が開催され、県内各地のモグリウムを巡り、顕微鏡で水を観察しそれぞれの生態系の違いを発見したり、交流会を行ったりしました。
20名ほどの参加メンバーの中でAIU生は私一人という環境で、気づかされたことがあります。それはAIUの「グローバル」、「多様性」という特長がもたらす別の面です。AIU内だけでグローバルな環境が成り立ってしまう反面、「多様性」と言いながらも、地元(ローカル)の状況を理解し、地元の人の声を聞けているのか、「グローバル」な課題を解決するために「ローカル」に動けているのかと疑問を持つようになりました。秋田県内の他大学の学生との交流を通して、今まで私が理解していた「多様性」の幅の狭さに気づかされ、とてもいい刺激を受けました。
AIUでの学びを活かして
伊藤:留学先のアメリカ、イリノイ大学でも、サステナビリティをテーマとする大学のコミュニティに所属し映画祭の運営に関わったり、サステナブルコンテストのUIUC Reimagine Our Future Competition 2023に出場(243グループの中で3位受賞)するなど、さまざまな活動に参加しました。
その中で、IUCN Leaders Forum Geneva 2023に対面で参加した際に気がついたことは、大規模な国際的な場においての本当の意味での交流、お互いを知る場面は、なにげないカジュアルな対話の際などに生まれるということです。それは、自分の言葉で、表現で伝えてこそだと思います。自身が言語を話そうとしなくても、同時通訳、翻訳アプリ等のツールに頼ればよいという考えもありますが、対面でのコミュニケーションは大切です。AIUで英語を使いながら日常生活を送り、学生がそれぞれの興味のある分野について英語で勉学に励むことは、世界で日本のプレゼンスを発揮する際に強みになります。AIUでの学びで、ディスカッションに慣れ、聞く力、発言する力、対話力が日々鍛えられていることを活かし、今後もさまざまな地域の人々と関わり合いながら、さらに学びを深めていきたいと思います。
今後のビジョン
伊藤:モグリウムは八郎潟の土着の遺伝子を持つ生態系の再構築をするだけではなく、キャンパスで生態系を観察できる教育施設でもあります。学内外のより多くの人にモグリウムの存在を知っていただき、生態系損失という「グローバル」な問題について、AIU生が教員、外部の団体と一緒に学内で「ローカル」に活動をする姿を見ていただきたいと思っています。また、そのためにも、AIUの後輩たちに、ぜひこの活動を引き継いで、プロジェクトを育ててほしいと思います。
7月に行われた第4回八郎潟モグリウム活動成果報告会において、「IUCN-Jユースとはちプロ学生部のコラボの可能性」と題してお話しをさせていただきました。そこではグローバルに活動を行うIUCN-Jで策定した将来世代戦略が、主にローカルに活動をしている秋田のはちプロ学生部の活動とどんなつながりを持っているのかについて発表しました。
また、今年8月末の生物多様性国際ユース会議 横浜2024(International Youth Conference on Biodiversity, Yokohama 2024 :IYCB)への参加も認められ、世界中から集まる生物多様性保全に関心のあるユースと議論できる刺激的な機会にワクワクしています。今後も国内外のさまざまな活動に積極的に参加し、私だからこそできることを探し、チャレンジし続けていきたいと思います。
名取准教授からのメッセージ
環境を守るということは、人間をどうするかだと言われます。言い換えれば、人と人のネットワークが環境保全の鍵だということです。モグリウムは、ワークショップ準備中の伊藤さんのメール作戦から始まったネットワークが思わぬ形で実を結んだものです。AIUでの教育に組み込むだけでなく、地域の生物多様性の域外保全や生態系の再生にも貢献できるように、大事に発展させていきたい取り組みです。
国際教養大学(AIU)はグローバルリーダー育成のために必要な3つの価値基準?行動指針として「#ダイバーシティと共に歩む」「#互いに高めあう」「#共に価値を創造する」のAIU Core Valuesを掲げています。